奈良学園大学 看護管理学特論2022(分担:リーダーシップの概念と理論,リーダーシップのスキル)
(大学院看護学研究科)

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第6回 リーダーシップの概念と理論

第7回 リーダーシップのスキル

第6回 リーダーシップの概念と理論

到達目標
基礎理論としてのリーダーシップ理論について理解する。各理論を通して、看護実践との関連性について検討する。
1リーダーシップの変遷について理解する
2「看護管理」の特殊性について説明できる

リーダーシップ(文献01)

組織離れ・個人化問題 →フリーライダーの存在 → (にならないように)複数人による協働がなされる際のプロセスにおいて発揮されるもの
フリーライダー(日本の人事部)
https://jinjibu.jp/keyword/detl/756/
リーダーシップの定義は千差万別
【引用】ザックリの定義(文献01より)
組織的目標(organizational objective)に向かって、人的資源(human resource)を導くすべての関連のある機能
医療は4つの資源
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地域と医療の統合に資する 情報活用の考え方 −不足の観点からみる医療2.10− より)
質問
リーダーシップを発揮していると思う人と,なんでそのように思うのか,教えてください

リーダーシップ研究の発展と課題(文献01)

リーダーシップ資質論

優れたリーダーは何か共通の個人的資質や特性を持っている
→身体的,精神的,性格的,知的,行動的特性で確たるものは抽出されていない

リーダーシップ行動論

リーダーとして必要な行動を明らかにすれば,育成教育が出来る(属人的ではない)

コンティンジェンシーアプローチ

すべての状況に適応されうる唯一最善の普遍的なリーダーシップスタイルは存在しない
状況により適切なリーダーシップスタイルは異なる
結論としては(安定的な状況)関係志向的,(不安定)タスク志向が良しとされたが・・・
ここまでの議論ではリーダーの話ばかりでフォロワーの関係について解明されていない

リーダーシップ論における相互作用アプローチの展開(文献02)

社会的交換理論

二者間で特定の利益にために互いの資源を交換
公平な交換,行為に対する返報性
Homans
リーダーシップとはリーダーがフォロワーに下す指揮(command)
リーダー →(命令,提案) → フォロワー
リーダー ←(服従)    ← フォロワー
リーダー →(報酬)    → フォロワー
フォロワーは交換関係を維持しようとする条件
1)価値ある報酬を得られる
2)リーダーに対するフォロワーの信頼
3)組織の一体感・・・規範的影響(組織に迷惑をかける)
欠点)フォロワーの服従のみによって評価しているので,リーダーシップによらない影響を否定できない
Hollander特異性−信頼理論
リーダーシップとはリーダーがフォロワーから信頼を獲得すること
1)リーダーはフォロワーに同調性を示す
 リーダーが集団の規範を守る
2)有能性を示す
 課題達成能力を集団に示す
3)変革行動を起こす
 フォロワーから求められる

リーダーシップ研究の発展と課題(文献01)

チーム制作業組織

リーダーシップとはチームを成功に導くこと
表 チーム・リーダーシップモデルを参照のこと
組織的活動に介入
質問
これまでに紹介した理論に基づいたとき,リーダーにはどのようなことが求められるのだろうか?

看護管理分野では?

上記のいずれかの類型にあてはまるのか?/もしくは別なものなのか?
世の中のリーダーシップの変遷のように捉え方は変化しているのか?
もしかしたら看護の世界に世の中が追い付いてきたのか?

TFL

看護師長のリーダーシップに対するスタッフナースのとらえ方と仕事への意欲の関連―変革型リーダーシップに注目して―(文献03)

参考文献

文献01:リーダーシップ研究の発展と課題(竹林浩志,大阪明浄大学紀要,2004)
https://tourism.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=233&item_no=1&page_id=26&block_id=55
文献02:リーダーシップ論における相互作用アプローチの展開(小野善生,關西大學商學論集,2011)
https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=9156&item_no=1&page_id=13&block_id=21
文献03:看護師長のリーダーシップに対するスタッフナースのとらえ方と仕事への意欲の関連―変革型リーダーシップに注目して―(野中らいら他,日本看護管理学会誌,2009)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/janap/13/2/13_66/_article/-char/ja/

第7回 リーダーシップのスキル

到達目標
リーダーシップの発揮について検討し、教育的役割を果たすことと併せて考察を深める。各自が置かれている状況下でどのようなリーダーシップ゚が有効であるかについて検討する。
1スキルの獲得についてついて説明できるる
2リーダーシップの発揮と環境について考えることができる

ふとした疑問

「看護管理」は医療機能や病院機能によってかなり異なり,一般的な組織の指示命令系統と比較すると複雑な構図なのでは.

医療機関における看護(文献04)

「医師以外の職種は医師の指示(order)を受け、依頼、協力関係にあることを、この組織図が示していることになる。」
その中での診療科と職能組織の関係
「看護職は部門別管理の権威による要請と、診療科別医師の専門的権威による指示(order)の、医療要請という、二重の権威の存在に対する役割を要求されており、それを背景に「チーム」への貢献という過重な責任を担っていることが理解された。」

私の解釈

看護部に所属し各診療科において業務される形
社会における勤務形態で所属組織以外での業務に請負派遣がある
偽装請負(1)請負と派遣の違いは指揮命令系統(日経クロステック)
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20060905/247258/
からみてもかなり特異.
クロスアポイントの場合は二重の雇用関係になるが,切り分けしている
クロスアポイントメント制度について(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/cross_appointment.html#:~:text=%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%82%A2%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E7%A0%94%E7%A9%B6%E8%80%85%E7%AD%89%E3%81%8C%E5%A4%A7%E5%AD%A6,%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AB%E3%81%99%E3%82%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
例えば兼務していると考えたとき,本務の指揮命令系統と兼務先の指揮命令系統があって自身が調整しているが,看護の場合も同様に本務の指揮命令系統があってそこからの調整とすると??
もうひとつ保助看法「療養上の世話又は診療の補助を行うことを業」であることを考えると整理がなかなか難しい

スキル(文献05)

文献より引用 産業界の管理職が獲得(増強)したいと感じるスキル・能力の上位3項目は、「ビジョン・政策立案力」「部下(後輩)の管理・育成能力」「リーダーシップ」である。
「業務に役立ったスキル・能力」を獲得した時期は就職した後に職場で が多い.
「コミュニケーション能力」「論理的思考力」「研究力」「数理・データサイエンスに関する知識」等の涵養・・・高等教育機関
(確かに社会で学ぶべきものと学校で学ぶべきものは異なる)
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社会人になってみた(頃を客観的に振り返る話) より)
リーダーシップのスキルそのものの獲得は就職した後かもしれないが,それまでの学生時代が重要
リーダーに求められる資質としては以下の3つを挙げている(文献06)
@リーダーシップそのもの,すなわち人を引っ張る力
A人格,すなわち人間的魅力でこの人なら付いていこうとさせるもの
B見識,すなわち目的に対する総合的な技術,知識,情報収集力
というところからも,入職までが肝心というところかと.

リーダーシップのスキル獲得

私的な解釈だと,自身のこれまでのスキルとは別に一から組み立てていく覚悟をもつというところでは.
リーダーとマネジャーの大いなる相違 昇進したら身につけるマインドセット(ハーバードビジネスレビュー)
https://www.dhbr.net/articles/-/43
例えば学生時代に学園祭の実行委員長をする場合,学内における授業で学んだ専門の知識は何ら役に立たない事例など
社会に出るとそれまでに獲得した知識を用いて問題を解決するのが使い方だが,教員になると獲得した知識は問題解決としてではなく,教育として用いるわけでその為には自身の知識構造を解釈した上で情報として組み直すスキルが必要になる
教員としては学生の生活に関する相談まで受けるようになると,もはや専門領域の知識のみで対応不可能
専門性を身に着ける過程で専門家として様々な専門性を獲得できる人材になれば良いのですが,専門性を獲得したところで留まるようではリーダーシップの獲得は困難でしょう
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よりよい医療に貢献する医療情報技師の役割 より)

リーダーシップの発揮(文献07)

興味深い研究報告がありますが,リーダーシップのスキル=自己犠牲的行動とした場合,それで組織の利益に尽くそうとする組織指向行動を導くのか
仮説1:自己犠牲的なリーダーは実際は能力やビジョンを欠いても,フォロワーはそれを持っているように見なす。
仮説2:自己犠牲的なリーダー,ビジョンと能力のあるリーダーは,フォロワーの集団アイデンティティを引き出す。
仮説3:フォロワーが組織指向行動をとろうとするかどうかは,リーダーが自己犠牲的であるかどうかよりも,集団アイデンティティの影響下にある。
ここでは全て仮説を肯定する結果になっている.
「自己犠牲的行動は,効果的である。」
「フォロワーの立場に立てば,それにごまかされて無能でビジョンのないリーダーについていかないようにする,ということも必要」
無能でビジョンの無いリーダーでもリーダーシップは発揮される自己犠牲的行動で弱く発揮される.その場合の行動は集団アイデンティティの影響によるが,よければ結果オーライ,よろしくない行動であればリーダーはフォロワーの責任に転嫁できる(身勝手なフォロワーとして)

リーダーは自己犠牲的行動を取ればよい というのは明らかな間違い

リーダーシップの開発(文献08)

一皮むける・・・ざっくりな表現
リーダーシップコア:フォロワーがついて行くに足ると認識する資質や行動
1)能力
「意思決定力」(知識,論理的思考力,胆力) 
「コミュニケーション力」
「行動力(実行力)」
2)人間性
「愛情」自分のことを思いやってくれる
「倫理」リーダー自身
3)一貫性
思考と行動の一貫性
リーダー自身がリーダーシップコアを「強化・習得」するだけでなく、それを保有しているように「演出・表現」することも必要
リーダー自身がリーダーシップコアを「強化・習得」していないにもかかわらず、保有しているように「演出・表現」した場合は不幸

リーダーシップ機能(PM理論)(文献09)

PBLテュートリアル教育の実践において、リーダーシップ機能の教育効果はあるか、PM指導行動測定尺度(三隅1984:p100)を用いて調査を行ったもの
リーダーシップ機能をPM理論に基づき測定している.
P「課題達成機能」
M「関係維持機能」
PBLテュートリアル教育がリーダーシップ能力を向上させる効果が認められた

とりまとめると
リーダーシップそのものに関しては実践においても獲得可能
リーダーの資質についても実践の場においてのみでの獲得を否定しないが,学生時代からの積み上げが肝要
問題を解決していかなくては進まない実践の場ははリーダーシップの開発に繋がるが,逆に知識不足など様々な問題が露呈するがその時に,どのような方向性で乗り切るかとその後の取り組みで決まるように思う
特に直面した問題に対する姿勢で,専門性が無いことを理由に正面から取り組めないようであればその時点で組織のニーズにこたえていないことになるので,その未来は当然残念なことになる
部下の手柄は自分のお陰,自分のミスは部下のせい.・・・だめねぇ
リーダーにとって人間性が求められる話は文献08にも示しているが,こちらの結果は興味深い(文献10)
PM理論に基づき分析しているが M「関係維持機能」が高い場合はネガティブな私生活状況の影響を受けて,魅力,親近感,尊敬,従順さが低下
逆にP「課題達成機能」が高いときはネガティブな私生活状況であったとしても親近感は増加

参考文献

文献04:病院組織のチームが有効に動くために―チーム医療での意思―看護職関係を焦点に―(加藤 和美,ビジネスクリエーター研究,2014)
http://www.business-creator.org/online_journal/onlinejournal-vol-1/bckenkyu_5/
文献05:産業界で必要なスキル・能力の獲得について−管理職4,000人の意識調査より−(岡本摩耶他,文部科学省科学技術・学術政策研究所ライブラリ,2018)
https://www.nistep.go.jp/archives/37078
文献06:SEの知恵袋:リーダーに求められる資質(妹尾稔他,情報処理,2002)
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=64047&item_no=1&page_id=13&block_id=8
文献07:リーダーシップに対する期待・失望のメカニズムの探究──自己犠牲的行動の知覚とその影響──(日野健太,日本経営学会第87回大会,2013)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/abjaba/84/0/84_F29-1/_article/-char/ja/
文献08:リーダーシップ論の展開とリーダーシップ開発論 (中村久人,経営力創成研究,2010)
https://toyo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3366&item_no=1&page_id=13&block_id=17
文献09:看護学系授業におけるPBLテュートリアル教育の効果 ― PM理論によるリーダーシップ機能の視点から ―
http://repository.tokaigakuen-u.ac.jp/dspace/handle/11334/1607
文献10:リーダーの私的生活状況の情報がリーダーへの好意度に及ぼす影響(武居由希子,日本心理学会第71回大会,2007)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/71/0/71_3EV012/_article/-char/ja
最後に
看護リーダーを育成しリーダーシップを発揮できる環境を実現するために,皆さんが関わっている(た)医療機関(もしくは組織)では何が足りないのでしょうか?