奈良県立医科大学 臨床医学総論・内科症候診断学(分担:医療情報学総論)
(医学部医学科)

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第7回 医療情報学総論

第7回 医療情報学総論

到達目標
7−1カルテに記載される情報について説明できる
7−2電子カルテの必要な要件について説明できる
7−3情報技術がどのように臨床で活用している/いくのか説明できる

本授業の目的

 医療情報学は、保健医療分野において発生する情報の取扱いに関する学問領域で情報技術、医用機器、診療記録などなど非常に広い領域が対象となる。
現在臨床で必要となる基礎知識の部分も必要だが、10年後の医療についても考える必要がある
そこで、本講義では
1:電子カルテから見渡す世界
2:医療分野において情報技術がもたらす(かもしれない)未来
について行う

情報とは

戦争に関する本で翻訳する時の森鴎外による造語とされる
以下の論文参照
情報という言葉の起源,長山 泰介,ドクメンテーション研究 33(9), 431-435, 1983
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002755644
情報という言葉の由来 [味村ノート](GPA Talks)
http://gpatalks.blog.so-net.ne.jp/2011-07-11

インターネットも軍事と関係があるとかないとか
「インターネットは軍事の産物・軍事技術」というのは正確ではないので注意されたし(Togetter)
http://togetter.com/li/1037921
ダイナマイトの話も似た話になりますが
レーザー研究者から見た軍事と民事の科学技術 −科学・技術のデュアルユース(用途の両義性)にどう向き合うか−,高部英明(webronza)
http://webronza.asahi.com/science/articles/2015122100003.html

情報とデータと知識の違い

joho20150613-5.png(149915 byte)
よりよい医療に貢献する医療情報技師の役割 より)

情報量

1か0の世界→どちらかはっきりさせると1bit
(情報を定量的に取り扱うことを可能に)

事象の起こる確率によって情報量は決まる。確率の低い事象を確定する情報ほど量は大きくなる
I=-log
事象の起こる確率によって情報の量が決まる
それぞれの事象の起こる確率が等しいならば選択肢の数(T)に書き換えられる(T=1/P)
I=logT → 何が起こるのか想定しないと情報は取り扱えない・・・想定外の事象の情報量は計算できない(無限大)

デジタルの世界では1か0の入る箱を考えられる選択しに基づき用意し、その組み合わせであらゆる(但し想定した範囲の)データを取り扱っている

記録とは

物事を記録する際は、心に揺り動かされないように
自身を記録する際は、心を揺り動かして書くように(ただしSNSに投稿する際は注意)

私の場合、自分と向き合う為に考えをまとめたものをいったん外に出し、再び向き合う
ex.ラブレターを夜書いて朝見直して絶望した経験
もう一人の自分を作り出すという発想で考えると古い自分との対話ですね
<参考記事>
死んだ彼女をチャットボットに代えた男性(Sputnik)
http://sptnkne.ws/csC3

診療記録

法令で「カルテ」なる言葉は出てこない。 「診療録」のことを指す
京都創成大学/京都短期大学メディアセンター報 芙蓉第18号

診療録は医師法(資格法)において義務が定められているのがポイント(医療機関の話=医療法ではない)
診療に関する諸記録は医療法

医師法で定めている理由としては、ともかく医療行為を行ったことの記録(というレベル)
故にキチンと記録しないと大変なことになる

以下
 医療事故と診療記録 : 関連する法律問題との関係から,前田 正一,日産婦誌,59(9) N-519-522,2007http://www.jsog.or.jp/PDF/59/5909-519.pdf
より引用
たとえば,岐阜地方裁判所昭和49年3 月25日判決は,一般論であるが,「…医師法第24条によれば,医師は患者を診察したときは診療に関する事項を記載した診療録(カルテ)を作成し,これを5 年間保存しなくてはならないところ,カルテの作成,保存を医師に義務づけたのは,医師の診療行為の適正を確保するとともに患者との関係で後日医師の診療をめぐって生起するかもしれない問題(再診療,医療費請求,医療過誤による損害賠償請求等)の法的紛争についての重要な資料となるものでありカルテに記載がないことはかえって診察をしなかったことを推定せしめるものとすら一般的にはいうことができるからである」と判示している.
<参考資料>
法令上作成保存が求められている書類(第9回医療情報ネットワーク基盤検討会(厚生労働省))
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0624-5e.html
他の医療関係記録に関する現行法令上の規定(抜粋)
(第10回「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」(厚生労働省))
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/10/s1005-14b.html

電子カルテ

概念が広がっている 情報は「モノ」じゃない。物理的な制限は記録メディアに依存する。複製は簡単

「電子カルテ」と一言で表すと多様過ぎてわからない

EMR(Electric Medical Record)
施設内の診療録(カルテ)および診療情報を電子化し活用・・・法令上の枠組みの世界(情報の保存場所)
EHR(Electric Health Record)
電子化のメリットを活かして情報の保存場所(施設)に依存しない活用
PHR(Personal Health Record)
情報は医療提供側のものではなく個々のものという視点で構築(Lifelog)

医療:medical treatment/care もしくは health care と表現されている

MedicalとHealthにまつわる話
医療(medical) 保健(health) 生活(Life,Living)

それぞれscienceをくっつけると
Medical science 医科学
Health science 保健学(医学+α)
Living science 生活科学(保健学+β)
(Life Science 生命科学)

ここまでのポイント

情報の電子化および情報を取り巻く環境の変化(例えば個人情報保護法)への対応

アナログ情報からデジタル情報へ


携帯電話はアナログの世界(通話)→デジタルの世界(通信)を経て通話以外の部分が発展
アナログ携帯(第1世代)の通信速度(通話のみ)
https://www.youtube.com/watch?v=nY67yVDoKik
デジタル携帯(第3世代VGS/FOMA)の通信速度(7.2Mbps/384kbps)
https://www.youtube.com/watch?v=7V1E6QKJIvE

法的に保存義務のある文書等の電子保存の要件
電子媒体の保存の話 → 紙媒体ならば自然に出来ていたのに
・真正性の確保
 (ア)故意または過失による虚偽入力、書換え、消去及び混同を防止すること。
 (イ) 作成の責任の所在を明確にすること。
・見読性の確保
 (ア) 情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること。
 (イ) 情報の内容を必要に応じて直ちに書面に表示できること。
・保存性の確保
 電磁的記録に記録された事項について、保存すべき期間中において復元可能な状態で保存することができる措置を講じていること。

 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第4.2 版(平成25年10月)厚生労働省 より抜粋
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000026087.pdf

プライバシー

個人情報保護関連の過去の講演会のスライド抜粋 APPI20041124-01.png(6398 byte)
APPI20041124-02.png(13989 byte)
APPI20041124-03.png(13313 byte)
APPI20041124-06.png(11671 byte)
APPI20041124-07.png(14058 byte)
APPI20041124-09.png(10904 byte)
APPI20041124-11.png(12730 byte)
APPI20041124-12.png(11661 byte)
APPI20041124-14.png(11651 byte)
APPI20041124-15.png(11966 byte)
(個人情報の保護に関する病院の義務と責任〜個人情報保護法の施行へ向けて〜 当日スライドより抜粋)

刑法第134条
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
正当な理由に関するところは以下の資料を参照
<参考>
秘密漏示罪と医師の守秘義務(松宮孝明 立命館大学法科大学院研究科長)(医療と法ネットワーク)
http://www.kclc.or.jp/medical-legal/public/files/column/vol_18_matsumiya.pdf
最高裁判例 事件番号平成17(あ)202 事件名覚せい剤取締法違反被告事件(裁判所)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50093
公務員の告発義務とその方式について(北海道町村会 法務支援室)
http://www.h-chosonkai.gr.jp/justice/?p=1612

子ども虐待診療手引き(日本小児科学会)
2.子ども虐待への対応に関する法律
https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=25
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/abuse_2.pdf
医師の守秘義務について(日本医師会)
http://www.med.or.jp/doctor/member/kiso/d12.html

これからの医療情報

技術の革新が医療を変えたのは皆さんもご存知のこと
産業革命のスピードが速くなっている。皆さんは日常の診療スタイルが不変というのはありえないだろう。変化に対応できる人材に
昔思い描いた未来が今であるならば、今思う未来は?

不都合な未来〜2025年の医療〜(第29回日本医学会総会2015関西 学術テーマ展示「ITがもたらす情報化社会の新たな医療環境」)
https://www.youtube.com/watch?v=fq8-FQ_T8c4

不都合な未来が来ないようにするには本質を技術に振り回されて見失わないように

情報化がもたらせるもの
(地域と医療の統合に資する 情報活用の考え方 −不足の観点からみる医療2.10−)
http://www.medbb.net/education/setonet20160521/index.html#53

人工知能ホワイト・ジャック、医師の診療支援 自治医大(朝日新聞デジタル) http://www.asahi.com/articles/ASJ3X5FL5J3XULBJ00L.html
AI導入で従業員34人削減へ 富国生命が査定を代替(16/12/30)(ANNnewsCH)
https://www.youtube.com/watch?v=BP3MgjLT8XQ
【HD】東海道新幹線遅れ運転時のATCによる運転制御  こだまのドアが開いて5秒後にのぞみが通過(windowside5489jp)
https://www.youtube.com/watch?v=bIM4hKmq41g
世界初!!自動運転デリバリーロボット「DRU」(ドリュー)|ドミノ・ピザ
https://www.youtube.com/watch?v=5JupbTVdBQA

アシストの程度が爆発的に向上。上げ膳据え膳の世界がやってきたときに何をもって?
人工知能が医師国家試験に受かる日 自動解答プログラム、開発者が語る(日経デジタルヘルス)
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/327442/100300011/
記事(2015年)では正答率42.6%だが1年後には55%超まで成長しているそうです。
国家試験を通ったから・・・という世界ではないことだけは明らか