奈良県立医科大学 臨床医学総論・内科症候診断学2017(分担:医療情報学総論)
(医学部医学科)

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第7回 医療情報学総論

第7回 医療情報学総論

到達目標
7−1医療情報を取り扱う際の注意点について説明できる
7−2電子カルテの必要な要件について説明できる
7−3情報技術が医学・医療にどのような変化を及ぼすのか考えることができる

本講義が医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいて担う部分・主に関連する部分

医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/033-2/toushin/1383962.htm

本講義の医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいて関連する部分
A医師として求められる基本的な資質・能力
 A-1 プロフェッショナリズム
  A-1-1)医の倫理と生命倫理
   ヒポクラテスの誓い、ジュネーブ宣言、医師の職業倫理指針、医師憲章等医療の倫理に関する規範を概説できる。
  A-1-3)医師としての責務と裁量権
   医師の法的義務を列挙し、例示できる。
B社会と医学・医療
 B-2 法医学と関連法規
  B-2-2) 診療情報と諸証明書
   診療録(カルテ)に関する基本的な知識(診療録の管理と保存(電子カルテを含む)、診療録の内容、診療情報の開示、プライバシー保護、セキュリティー、問題志向型医療記録<POMR>、主観的所見、客観的所見、評価、計画(subjective, objective, assessment, plan <SOAP>))を説明でき、実際に作成できる。
   電子化された診療情報の作成ができ、管理を説明できる。
F診療の基本
 F-3 基本的診療技能
  F-3-3)診療録(カルテ)
   プライバシー保護とセキュリティーに充分配慮できる。
  F-3-5)身体診察
   F-3-5)-(1)基本事項
    患者のプライバシー、羞恥心、苦痛に配慮し、個人情報等を守秘できる。
     <参考資料>A-1 プロフェッショナリズム
「ヒポクラテスと医の倫理」(日本医師会)
http://www.med.or.jp/doctor/member/kiso/k3.html
医師の職業倫理指針[第3版](日本医師会)
https://www.med.or.jp/doctor/member/000250.html
医療プロフェッショナリズム概念の検討,山本武志 河口明人,北海道大学大学院教育学研究院紀要 126,1-18,2016
https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/62492

本授業の目的

 医療情報学は、保健医療分野において発生する情報の取扱いに関する学問領域で情報技術、医用機器、診療記録など非常に広い領域が対象となる。
現在臨床で必要となる基礎知識の部分も必要だが、10年後の医療についても考える必要がある
そこで、本講義では
1:医療において発生する情報の取り扱いについて
2:情報技術がもたらす(かもしれない)医療の未来
について行う

情報とは

戦争に関する本で翻訳する時の森鴎外による造語とされる
以下の論文参照
情報という言葉の起源,長山 泰介,ドクメンテーション研究 33(9), 431-435, 1983
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002755644
情報という言葉の由来 [味村ノート](GPA Talks)
http://gpatalks.blog.so-net.ne.jp/2011-07-11

インターネットも軍事と関係があるとかないとか
「インターネットは軍事の産物・軍事技術」というのは正確ではないので注意されたし(Togetter)
http://togetter.com/li/1037921
ダイナマイトの話も似た話になりますが
レーザー研究者から見た軍事と民事の科学技術 −科学・技術のデュアルユース(用途の両義性)にどう向き合うか−,高部英明(webronza)
http://webronza.asahi.com/science/articles/2015122100003.html

情報とデータの関係

nmucommed2017-01.png(276444 byte)
奈良県立医科大学 地域医療学2017(データ分析編)(大学院看護学研究科) より)

情報量

1か0の世界→どちらかはっきりさせると1bit
(情報を定量的に取り扱うことを可能に)

事象の起こる確率によって情報量は決まる。確率の低い事象を確定する情報ほど量は大きくなる
I=-log
事象の起こる確率によって情報の量が決まる
それぞれの事象の起こる確率が等しいならば選択肢の数(T)に書き換えられる(T=1/P)
I=logT → 何が起こるのか想定しないと情報は取り扱えない・・・想定外の事象の情報量は計算できない(無限大)

デジタルの世界では1か0の入る箱を考えられる選択しに基づき用意し、その組み合わせであらゆる(但し想定した範囲の)データを取り扱っている

記録とは

実施した実績、もしくはその事柄に用いたもの
目的の達成の為に情報を取りまとめているものは(まだ)記録ではなく、結果が出た後に用いられていた情報などを取りまとめたもの、結果自身が記録。コトが終わった後の話

文書と記録の違いは?(Pマーク支援ブログ)
https://www.privacy-mark.com/blog/privacymark-document/1748/

診療記録

法令で「カルテ」なる言葉は出てこない。 「診療録」のことを指す
京都創成大学/京都短期大学メディアセンター報 芙蓉第18号

診療録は医師法(資格法)において義務が定められているのがポイント(医療機関の話=医療法ではない)
医師法第24条 医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
同   第2項 前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。
診療に関する諸記録は医療法

医師法で定めている理由としては、ともかく医療行為を行ったことの記録(というレベル)
故にキチンと記録しないと大変なことになる

医療事故と診療記録 : 関連する法律問題との関係から,前田 正一,日産婦誌,59(9) N-519-522,2007
http://www.jsog.or.jp/PDF/59/5909-519.pdfより引用
たとえば,岐阜地方裁判所昭和49年3 月25日判決は,一般論であるが,「…医師法第24条によれば,医師は患者を診察したときは診療に関する事項を記載した診療録(カルテ)を作成し,これを5 年間保存しなくてはならないところ,カルテの作成,保存を医師に義務づけたのは,医師の診療行為の適正を確保するとともに患者との関係で後日医師の診療をめぐって生起するかもしれない問題(再診療,医療費請求,医療過誤による損害賠償請求等)の法的紛争についての重要な資料となるものでありカルテに記載がないことはかえって診察をしなかったことを推定せしめるものとすら一般的にはいうことができるからである」と判示している.
<参考資料>
法令上作成保存が求められている書類(第9回医療情報ネットワーク基盤検討会(厚生労働省))
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0624-5e.html
他の医療関係記録に関する現行法令上の規定(抜粋)
(第10回「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」(厚生労働省))
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/10/s1005-14b.html

電子カルテ

概念が広がっている 情報は「モノ」じゃない。物理的な制限は記録メディアに依存する。複製は簡単

「電子カルテ」は「電子」化したことにより空間の制限を超えることができる

EMR(Electric Medical Record)
施設内の診療録(カルテ)および診療情報を電子化し活用・・・法令上の枠組みの世界(情報の保存場所)
EHR(Electric Health Record)
電子化のメリットを活かして情報の保存場所(施設)に依存しない活用
施設を飛び越え患者の生活圏(地域)での医療情報の共有
PHR(Personal Health Record)
情報は医療提供側のものではなく個々のものという視点で構築(Lifelog)
介護など生活の場から発生する情報も含めた情報の共有

<参考資料>
(2)医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進(第2部第5節ICT利活用の推進−平成29年版情報通信白書)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc275120.html
医療の効率化・質の向上へ貢献するEHR/PHR,熊田総佳,山口聡 他,NTT技術ジャーナル 22(10),8-14,2010
http://www.ntt.co.jp/journal/1010/files/jn201010008.pdf
http://www.ntt.co.jp/journal/1010/

法的に保存義務のある文書等の電子保存の要件
電子媒体の保存の話 → 紙媒体ならば自然に出来ていた事柄
・真正性の確保
 (ア)故意または過失による虚偽入力、書換え、消去及び混同を防止すること。
 (イ) 作成の責任の所在を明確にすること。
・見読性の確保
 (ア) 情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること。
 (イ) 情報の内容を必要に応じて直ちに書面に表示できること。
・保存性の確保
 電磁的記録に記録された事項について、保存すべき期間中において復元可能な状態で保存することができる措置を講じていること。

医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版(平成29年5月)(厚生労働省)より抜粋
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000166275.html

個人情報の保護

個人情報保護法

個人情報保護法の基本(個人情報保護委員会事務局)
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/28_setsumeikai_siryou.pdf
改正により変更した事柄
5000件用件の撤廃
個人情報の定義に個人識別符号が追加
要配慮個人情報
匿名加工情報
などなど・・・
<参考>法令・ガイドライン等(個人情報保護委員会)
https://www.ppc.go.jp/personal/legal/

刑法

刑法第134条
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
「医師が患者情報についての守秘義務を免れるのは、患者本人が同意・承諾して守秘義務を免除した場合か、または患者の利益を守るよりもさらに高次の社会的・公共的な利益がある場合である。近時の最高裁判例には、患者の尿中に覚せい剤反応が出たことを警察に通報した行為は違法ではないとしたものもある。さらに、児童虐待の通告、配偶者からの暴力の通報、「養護者」による高齢者虐待の通報など、それらが法律の守秘義務違反とはならないことを明示する法律もある。」
医師の職業倫理指針[第3版](日本医師会)P9より引用
https://www.med.or.jp/doctor/member/000250.html
正当な理由に関するところは以下の資料を参照
<参考>
秘密漏示罪と医師の守秘義務(松宮孝明 立命館大学法科大学院研究科長)(医療と法ネットワーク)
http://www.kclc.or.jp/medical-legal/public/files/column/vol_18_matsumiya.pdf
最高裁判例 事件番号平成17(あ)202 事件名覚せい剤取締法違反被告事件(裁判所)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50093
公務員の告発義務とその方式について(北海道町村会 法務支援室)
http://www.h-chosonkai.gr.jp/justice/?p=1612

子ども虐待診療手引き(日本小児科学会)
2.子ども虐待への対応に関する法律
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/abuse_2.pdf
https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=25
医師の守秘義務について(日本医師会)
http://www.med.or.jp/doctor/member/kiso/d12.html

情報技術の革新がもたらす医療環境の変化

技術の革新が医療を変えたのは皆さんもご存知のこと
産業革命のスピードが速くなっている。皆さんは日常の診療スタイルが不変というのはありえないだろう。変化に対応できる人材に
昔思い描いた未来が今であるならば、今思う未来は?

不都合な未来〜2025年の医療〜(第29回日本医学会総会2015関西 学術テーマ展示「ITがもたらす情報化社会の新たな医療環境」)
https://www.youtube.com/watch?v=fq8-FQ_T8c4

不都合な未来が来ないようにするには本質を技術に振り回されて見失わないように

情報化がもたらせるもの
(地域と医療の統合に資する 情報活用の考え方 −不足の観点からみる医療2.10−)
http://www.medbb.net/education/setonet20160521/index.html#53

Society 5.0 新たな価値の事例(医療・介護)(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/medical.html

【HD】東海道新幹線遅れ運転時のATCによる運転制御  こだまのドアが開いて5秒後にのぞみが通過(windowside5489jp)
https://www.youtube.com/watch?v=bIM4hKmq41g
自動運転活用へ実験進む〜「ロボネコヤマト」(中日新聞・電子編集部)
https://www.youtube.com/watch?v=MOK28rnmOFg


保健医療分野におけるロボットの現状と未来(開催趣旨)(2017年度第一回MTE(主催 日本医療情報学会関西支部))
http://www.medbb.net/education/mte20171107/index.html

【動画】マツコロイド、黒柳徹子アンドロイド「totto」と初対談(MAiDiGiTV)
https://maidigitv.jp/movie/fU0fmF2N2qk.html
人工知能が医師国家試験に受かる日 自動解答プログラム、開発者が語る(日経デジタルヘルス)
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/327442/100300011/
記事(2015年)では正答率42.6%だが1年後には55%超まで成長しているそうです。

中国の話になりますが
【動画】AIすげええ! ロボットが “医師国家試験” に合格! 誕生から9カ月、知識は医学博士レベルらしい / 人間の医者が消える時代きちゃう? (MSNニュース)
https://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/%E3%80.../ar-BBFjJLd

検査画像情報を取り入れた医師国家試験自動解答プログラムの構築,川村健史 伊藤詩乃 榊原康文,医療情報学会・人工知能学会AIM 合同研究会資料SIG-AIMED-002-06
https://jsai.ixsq.nii.ac.jp/ej/index.php?active_action=repository_view_main_item_detail&page_id=13&block_id=23&item_id=1343&item_no=1
国家試験を通ったから・・・という世界ではないことだけは明らか

とはいうものの国家試験の過去の問題を少し見てみましょう。
(ここからはWebではなくPowerPointで)


紹介した過去問に関連するサイト等
患者の権利に関するリスボン宣言(日本医師会)
http://www.med.or.jp/wma/lisbon.html
医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/teikyouseido/index.html
医療法改正の概要(平成18年6月公布、平成19年4月施行)(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/11/dl/s1105-2b.pdf
医療法第六条の三 病院、診療所又は助産所(以下この条において「病院等」という。)の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、医療を受ける者が病院等の選択を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定める事項を当該病院等の所在地の都道府県知事に報告するとともに、当該事項を記載した書面を当該病院等において閲覧に供しなければならない。
 同   第二項 病院等の管理者は、前項の規定により報告した事項について変更が生じたときは、厚生労働省令で定めるところにより、速やかに、当該病院等の所在地の都道府県知事に報告するとともに、同項に規定する書面の記載を変更しなければならない。
 同   第五項 都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項及び第二項の規定により報告された事項を公表しなければならない。
https://docs.google.com/forms/u/0/

講義後追記

急に画面がうつらなくなり失礼しました。なんとかして復旧できるように手伝ってくれた方心配してくれた方ありがとうございました。
解像度を低くしたら映るようになったのでなんとかなりましたが、それならば最初から映らなかったら早く対処できたのにと思う次第です。
情報システムが途中でトラブってしまうと解決までに時間を要するところを実感していただく機会になってしまいました

紹介した過去問は以下
問1:第111回 E27
問2:第111回 F3
問3:第109回 H1
問4:第109回 H22
問5:第110回 F20
第111回医師国家試験の問題および正答について(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp170425-01.html
第110回医師国家試験の問題および正答について(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp160411-01.html
第109回医師国家試験の問題および正答について(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp150511-01.html

回答の集計結果ですが学内の教務システム「臨床医学総論・内科症候診断学」の「振り返り」にupしています

回答状況に基づく補足説明
・守秘義務が刑法で定められているのは医師法では無いというところ。守秘義務を免れる話のくだりは(試験でも・臨床現場でも)悩むところです。整理しておいてください
・診療録は医師法で5年間保存と定められています。(と医師法のところでキチンと言ってなかったような気がしたので。上の資料には記されていますが)
あとは「紹介した過去問に関連するサイト等」のところ参照